繊細な模様を施した手打ちの家具をあしらい、深くやわらかな漆塗りで丁寧に仕上げられた岩谷堂の家具。その起源は江戸の天明時代(1780年代)。現在の岩手県 岩谷堂城主 岩城村将が、三品茂左右衛門に車付きの箪笥を作らせた事にさかのぼります。さらに鍛冶職人 徳兵衛によって彫刻金具が考案され、次第に虎に竹、籠、花鳥など職人の手により美しい金具があしらわれるようになります。
伝統の技術と厳選された材料によって作られた岩谷堂の家具は、現代の住空間の中でも、強烈な存在感を保っています。
昭和57年その伝統的意匠、材質、組立工法、手打金具の技法、漆塗装が認められ、経済産業大臣指定の伝統工芸品に指定されました。
経済産業大臣指定伝統工芸品
木地作りは、箪笥作りの「生命」ともいわれ、いまだに一人の職人が木取りからはじまり、一貫した手作り作業だけで、あの重厚な形状を作り上げていきます。
使われる木材は主に欅(けやき)と桐(きり)。重厚な表層はその美しい木目の樹齢300年を超える欅で形づくられ、一方、ひき出し内部には桐の無垢材を使用し、狂いの少ない桐の材質が大切な衣類を永く守り続けます。
組み立ては鉄の釘は使わず、「組接ぎ」「仕口」と呼ばれる加工によって部材を噛み合わせ、引き出しが箪笥本体に寸分違わず収まるよう、わずかな狂いも見逃さない調整は、全く歪みのない箪笥を作り出します。
上等な箪笥は閉まらない?
「良い箪笥は引き出しを閉めると他が開く」と言われるのは気密性が高く、引き出しの奥の空気が他の段に逃げるから。これは虫の侵入を防ぐため。大量生産の組み立て家具にはこのような気密性はありません。
岩谷堂箪笥は伝統だけでなく、機能性にも優れた家具なのです。
漆塗りには木目美しさを際立たせる「拭き漆塗り」と目地を漆で埋め、漆を塗り重ねて鏡面のように仕上げる「木地呂塗り」があります。いずれの方法も、塗っては拭き、塗っては磨くという工程を何度も繰り返します。箪笥の外側に漆を塗ることにより木目の美しさが映え、外観が美しくなることはもちろん、時を経るにつれて透明感が増し、深くやわらかな独特の光沢が産まれます。
岩手県は日本を代表する漆の産地で、平泉文化を華麗に装飾した漆塗装の技術が岩谷堂の家具に生きています。
「塗る」という事…
塗るといっても刷毛でひと塗りではない。木地調整・木地固め・錆付け・研磨・塗り・乾燥・研ぎ…更に細かな工程を何度も繰り返し、漆が塗られます。「吹き漆塗り」では乾燥と研磨だけでも5回、「木地呂塗り」では更に多くの工程を必要とします。美しい漆しの風合いは、膨大な時間と手間が掛けられた証です。
岩谷堂箪笥の大きな特徴の一つは重厚かつ華やかな金具にあります。この金具には伝統技法による鏨(たがね)を使って、手彫りでつくる「手打ち金具」と南部鉄の技法を用いる「南部鉄器金具(鋳物金具)」の2種類があります。
鉄板や銅板を打つタガネ(鏨)によって浮かび上がった模様は、特有の美しいふくらみを産み、勇ましい風神・雷神、見返り美人、咲き誇る牡丹など、鮮やかに浮き彫りされた絵模様は漆の透き通った漆と合わさり重厚な風合を醸し出します。
引き出しが箪笥本体に寸分違わず収まるよう、わずかな狂いも見逃さない調整は、全く歪みのない箪笥を作り出します。
匠は道具さえ作り出す?
手打ち金具特有の美しいふくらみと繊細な曲線を生み出すために、タガネは欠かせませんが、時にはタガネそのものの制作から始めることも。工房には多数のタガネがあり、これらひとつひとつ全てが手作り。美しい仕上がりに妥協を許さない職人の心意気を感じます。
なめらかな木地の上に金具がはめこまれると、
この時から匠の手を離れ、
使い手を待つのです。
伝統の技術と厳選された
材料によって作られた岩谷堂の家具は、
現代の住空間の中でも、
圧倒的な存在感を保っています。
和室、洋室、リビング、玄関に、
この家具一つで上質な空間を演出。